女性が盗み見るように頭を傾げては歩道に立っている青年を見る。その仕草から、ある程度、嫌悪感を持っている事は間違いない。それはそうだろう、女性の立場になって考えれば、見知らぬ男性に後を付けられる事実は何事にも変え難い出来事だろう。
「貴方に付きまとう男性は、歩道で立っている人物に間違いありませんね」
宇根が指差す方向を見て、女性が答えた。
「私に付きまとっている人は、あの人に間違いありません」
女性の言葉を確認した宇根は、署内にいた未婚の女性警察官に向かって声を掛けた。
「藤原君。表で立っている男性が彼女に付きまとっているらしい。奥の応接室で、こちらの方から事情を聞いてもらえるかな。私は表にいる青年から事情を聞くから」
今夜も家には帰れそうにないな、と宇根の頭には悪い予感がよぎった。その想いを振り切るかのように玄関を開け放ち階段を降りる。歩道まで出た所でゆったりとした歩みに変え、ズボンの後ポケットに入れた警察手帳を確認し、若い男性に近づき声を掛けた。
「君。失礼だけど名前と住所、聞かせて貰えるかな」
宇根の言葉を一般市民が聞くと、あまりにも不自然に聞こえるが、警官が職務質問をする際はどうしても聞き慣れない言葉になってしまう。これが車を運転中ならば『運転免許証を拝見できますか』と聞けば良いのだが、青年が何かを運転しているわけではない。
「おじさん、誰?」
青年が問い返した言葉は警官に対するものには聞こえないが、宇根は既に私服に着替えた後だし、身分を明らかにした訳でもない。宇根はその事を十分認識している。
「この東警察署の宇根巡査というものだ。私は自分の身分を明らかにしたのだから、今度は君の番だ、名前と住所を聞かせてくれ」
「どうして名前を言わなければいけないの?」一瞬、宇根の顔が機嫌悪いものに
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