一瞬、宇根の顔が機嫌悪いものに変わり、続いて青年を威嚇する顔付きに変る。だが、宇根が威嚇する顔をしたぐらいでは何とも思わない青年。彼の父親は建設現場で働く職人であり、普段から気質の荒い人物だった。子供のしつけにも厳しい面を見せ、鬼の表情を作りながら手を上げることも時々あり、威嚇する顔には慣れていたのだ。
「ひとりの女性が、君が後を追ってくる、と警察署に駆け込んできた。私達としたら君の身分を確認するのが最初の職務になる。名前も住所も言えないのなら、署まで同行してもらう事になるが。それでも構わないかな」
宇根の言葉は、いわゆる任意同行を求めている事になる。任意である以上、青年には拒否をする権利はあるのだが、この場合名前も住所も明かさない青年は分が悪い事になる。
一方、宇根が声を掛けた藤原巡査部長は素早く状況を判断すると、太った身体からは想像できない素早さで女性に駆け寄り、寄り添うようにして交通課の奥にある応接用のソファーに座らせて氏名と住所を聞き始めた。被害者になるだろう女性の身元をこんな時でも確認するのか。という気もするが、まず事実関係を把握するのが警察の仕事だ。
それよりも事件は思いもよらない方向に向かっていく。原因は藤原から事情聴取を受けた女性の言動にあった。青年を逮捕する為にはストーカー規正法により本人からの訴えが必要だと聞かされ、そこまでする気はない、今後、私に付きまとわないように言ってもらえばいい、と自分の名前等と簡単な事情を述べただけで、この広島東警察署を後にしたのだ。
つまり女性が訴えなかったから、今回の事件はストーカー規正法に引っ掛かる事件として成り立つ理由がなく、任意同行した青年は、すぐに帰宅を許されるはずだった。財布を取られたと騒ぐ中年男やに続く。チワワ・大好きもご覧ください。
― Copyright-Big Japan web dwyt.テンプレート=http://www.takumu.net/hp/ ― 文章にはすべて著作権があります
End of this pages.Next one.